December 30, 2021

限られた環境の中でアップデートして成長

「親-子」と「指導者-選手」という両方の関係でオリンピック候補選手を抱えていた我が家の2021年.

将来への未知なるリスクを考え,我が家の方針は「ワクチン接種までは厳重警戒」だった.

そのためナショナルチームメンバーいや新体操競技者としてはあり得ない不十分な練習機会に甘んじざるを得なかった.体育館練習は週末の3時間/日のみ,つまり一週間にたった6時間.あとは家の中で部分トレーニングをするしかない.投げーキャッチの得点配分が高いルールにおいて,体育館練習の少なさは致命的だ.

指導者としては,「限られた環境の中でどこまで上達させられるか」究極の効率的トレーニングを生み出すしかない.そして選手に対しては,投げーキャッチで点を得ること以外に「何にこだわって上達することを楽しむか」と,スポーツに対する価値観の変革を求め,それを心から共有し実践することで新たな次元での成長を楽しむことを.そして「ビートに合わせることと表現すること」にこだわることになった.

親としては,十数年も競技に取り組み続けた娘が,厳戒態勢で身動きも取れず将来も見えない中,一時の感情の波で取り返しのつかない行動に出ないよう,気を配る役割だ.まずは見守り,時には諭し,あるいは憎まれ役を買いながら.

ようやくワクチンを打て1年振りに戻って来た競技会では,我々指導陣は競技力がどこまで通用するか案ずるばかりだった.ところが,選手は競技者の顔ではなく,広い会場で久しぶりに伸び伸びと動けて気持ちいい,幸せ満面の笑みを全身で発し嬉々として動いている.

その姿は,このスポーツを始めた頃の純粋に楽しんでいた娘を思い出させてくれた.ナショナルチームに入ったり,コロナ禍で不自由になったりして,本来楽しむべきスポーツに,どんな状況でも結果を出すことが当たり前の,「まるで宿題かのような重い責任感」を被せてしまっていたことに気がついた.

奇しくもコロナ禍の不自由さの中で溜め込まれた若いエネルギーが,ワクチンによる安全性の向上でいっときに解放され,この重いベールを吹き飛ばした.我々夫婦は,スポーツを純粋に楽しむことを取り戻した娘の姿を,親として再び眺めることができ,もう,それだけで満足と目を合わせていた.

その1か月後の,オリンピック予選を兼ねた全米大会.技術的には明らかに準備不足な選手・娘を抱え,我々指導者・夫婦は,どんな結末でも受け入れる準備ができていた.

リボン最終ポーズ

最後の演技終了ポーズの瞬間,娘は何を見つめ,感じ,思ったのだろうか.

その時の最後の演技動画が残っている

撮影者が何か気配を感じたのか,カメラは演技終了後も我々の姿が見えなくなるまで追い続けていた

指導者でもあり親でもある我々は,限られた環境の中で最大限のことをやり抜いてここまでたどり着いたことを誇りに思い,心から讃えた.着替えて少し時間が経てば,晴れやかな気持ちにさえなってくる.
競技終了後

翌日,さっぱりした気持ちで過ごしていると,「2021スポーツパーソン賞」に選ばれたという連絡が突然入ってきた.前回に引き続いてのまさかの連続受賞で,驚きと光栄の大喜びである.

これはナショナルチームメンバー全員が無記名投票で「讃えるべきパーソン(人)」を選ぶ栄えある賞である.どのメンバー達よりも少ない大会参加と練習環境の中でも諦めずにトレーニングを続け,学業レベルの高い大学にフルタイムで通い続け,そしてソーシャルメディアで正しく楽しい新体操の普及に貢献するなど,そういうスポーツへの関わり方に対して,仲間達が評価してくれたのだろう.誰もが抱くオリンピック出場への夢は叶わなかったが,きっとそれ以上の価値のある,この上なく光栄で貴重な受賞である.

こちらがその表彰式の動画だ

笑顔のレオタード姿で表彰される機会を与えていただき,感謝である.

スポーツパーソン賞受賞

この大会の舞台裏を含めた一部始終がVlogになっている.



後日,妻には,(他の)オリンピック代表選手の活躍を導くに至るナショナルチーム全体への貢献として,アメリカオリンピック委員会から感謝状が送られてきた.こちらもこの上ない光栄で大喜びである.
USオリンピック委員会感謝状
競技活動に一段落付けた娘は,いつの間にか500万人を超えるSNSフォロワーが付き,広告動画を依頼されたり国際エージェントと契約したりしながら,クリエーターとしてのキャリアを着々と築き始めている.限られた環境の中だからこそこだわって練習してきた「ビートに合わせることと表現すること」へのアップデートが活かされ,成長している.
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日本語も普通に話せるので,我々の母国,日本への広がりも親としては願っている.

また,これ以上ない名誉をいただいた妻は,今後は指導者にアドバイスをしたり,趣味としての料理に力を入れたりしようとしている.家の中でこもって時間があるからと料理をする時間が増えていたが,そういえば,昔,高橋尚子選手ら陸上選手達の料理担当をしていたこともある.食べきれない程の美味しい料理と美しい盛り付けを創作活動として楽しんでいるようだ.
インスタグラム

こんな女性陣の大活躍の陰で,自分もチビチビと研究を進めていた.コロナ禍で人の実験ができないので,頭の中だけで妄想実験したり,研究費申請書の審査活動や執筆に重点を置いたりした.その結果,優秀な工学者の力も借りてNIHグラントを取得でき,幸運のお裾分けに恵まれた.

ジョージア工科大学ニュース

ナショナルチームのスポーツ心理学者から色々と学んだうちの一つに,とてもためになる行動指針がある.

「自分ではコントロールできないもの(Uncontrollable)」に気持ちを奪われず,
「自分でコントロールできること(Controllable)」に集中して行動すること.

環境というものは善かれ悪しかれ変化することがあり,個人の力ではどうしようもない場合もある.自分でコントロールできること,つまり自分自身の価値観や行動をアップデートしていくことで,新たな自分として成長していきたい.


shinojpn at 05:56│Comments(0)

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