January 08, 2017

必然の科学者史

久しぶりに日本から届いた郵便物を少し乱暴に開け始めると,ピンクっぽい物が目に飛び込んできた.

ピンク?と体が反応し,少しドキドキしながら,ビリビリビリッと破き開けてみる.

私の中に封じ込められていた,あの興奮を刺激する,ピンクの本が飛び出してきた.

非売品.

一般には出回らず,マニアとして認められた人達だけが手に入れられる.

「手と指」
  
アメリカに来て数年経った2003年にそのテーマで研究助成をいただいた,中山人間科学振興財団の創立25周年記念誌である.受賞者達はこの「25年の歩み」という記念誌に載せる文章を「自分の研究史における受賞研究の位置づけ」というお題で寄稿依頼されていた.

依頼されたとき,それが科学史を専門とする村上陽一郎氏の企画と知った瞬間,学生時代,氏の読み物から刺激していただいた,オドロキの知的興奮がパパッとよみがえった.

「科学的」って何だろう

 
東大生が読むには,タイトルも,見かけも,重さも,軽い本だった.

30年も昔のことだから,本の細かい内容は覚えていない.しかし,昔,初めてのお子様ランチに飛び上がって小旗を振ったような,その時の「興奮したという記憶」は封印され残っているものである.

「科学的な発見は偶然ではなく,その背景には,それが必然となる,科学者達の歴史がある」

うろ覚えながら,いくつかの具体例から,そんな「必然の科学」的な科学史があるということを,臨場感あふれる形で,初めて知り,興奮した.
 
論理的な思考が大好きだった文系学生の私は,事項説明に終始する脈略の無い歴史は大嫌いだった.しかし,この本で科学史という歴史分野があること,そしてそれは必然の歴史という論理の物語であることを知り,のめりこむ様に読み進めた.

そこに書いてあったのは,もしかすると「科学の」必然的歴史だったのかもしれない.しかし,私の記憶の中では「科学者の」必然的歴史が書いてあったような記憶になっている.副題に「科学の歴史の落ち穂を拾う」とあるように,見逃しがちな情報を拾いあてていくその紐解きは,まるで探偵小説のようであり,衝撃だった.

そんな風に私の若き心を刺激してくれた村上氏の企画に参加できることを光栄に感じ,私個人の「科学史」ではなく「科学者史」における研究助成の位置づけを「25年の歩み」にしたためることにした.

CoverPage












「アメリカでのグラントとファカルティ職につながった科学者史の1ページ」
過去の受賞者達の文章の中で,誰よりも長いタイトルとなっていた.

非売品のピンク本を持つ研究マニア達だけの中に埋もれ去られるのも惜しいので,内容を少し抜粋してみる.


“海外在住者にこそ必要な,独自の研究活動を可能にする日本の研究助成は少なく,...”

“2003年,ボスの研究助成金で雇われた研究員であったため,その助成内容からズレる個人的な興味の研究に対しては,研究費サポートが得られなかった. ....この助成金によって,外国でも自分独自の研究アイディアを試すことが可能になった.”

小さなアイディアを試すだけの研究だったが,思い起こせば,それがきっかけとなってグラントやファカルティ職につながった.そんな「私の科学者史」の大切な1ページが,2003年にいただいた「手と指」の研究助成であった.

財団は,国際交流助成として,海外研究者の招勅にも助成をしている.

“いつの日か,海外研究者受け入れ助成のサポートで日本と国際交流する幸運に恵まれ,「私の科学者史」の財団の2ページ目を綴れる日がくることを願っている.”

去年の3月,そんな結びで締めくくった文章を寄稿した(全文は末尾に掲載).

その数ヶ月後,財団の助成テーマ「生体情報のモニタリング」に日本の共同研究者の国際交流申請が採用され,12月に日本に招勅された.あまりにも「できすぎ」だった.

しかし,この国際交流助成は,記念誌への寄稿が依頼されたことから意識され,その流れで「工学のスポーツ科学への応用」の研究交流のために招勅法を探していた共同研究者に伝え,申請されたものだった.後から考えれば,これも必然と言えるのかもしれない. 

こうやって,その時々はがむしゃらで行動していたことも,1ページずつ,必然の科学者史としてつむがれていくものなのかもしれない.

過去を変えることはできない.

そして,その過去があるからこそ,何かが起きるのが必然である.

その必然は,過去を踏襲する必然かもしれないし,過去を否定する必然かもしれない.

いずれにせよ,今日の行動は過去からの必然であり,未来への必然を引き起こす可能性を秘めている.

さあ,今日は何をするか.

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shinojpn at 19:59│Comments(0) プロフ生活 

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