July 03, 2016

在外研究者の妻がアメリカで起業

今年2016年前半の大きな出来事として「妻のアメリカでの起業」という快挙があった.

「アメリカで地に足を付けて研究していこう」と10年計画で考え始めた当初から,研究者である前に家族持ちとしての課題を抱えてきている.アメリカという地で,どうやって家族「それぞれが」困らずに(=ハッピーに)生きていけるようにするか,という課題である.

好んでアメリカに飛び込んできた自分がつまずいたり困ったりするのは自業自得だ.が,日本での立場を捨てて付いて来てくれた妻や,アメリカ社会で育ち独り立ちしていかなければならない娘に対し,それぞれが将来困った状況に陥らないように道筋をつけてあげることは,言いだしっぺの私にとって失敗の許されない責任である.

親族もお金も宗教もない外国人/移民が格差社会アメリカで生きていけるように,とはどういうことか.終身雇用の無いアメリカで生きていく第一の策としては,専門性を磨き活かせるように妻を導いていくこと,そして高いレベルの高等教育を受けられる状況に子供を導いていくことであろう.

妻は4年前に新体操指導者として体操スクールに採用され,その後,英語で苦労しながらもナショナル審判の資格を取ったりキャンプに参加したりして,今やアメリカ新体操界で唯一のアジア系ナショナル指導者として一目置かれるようにまでなった.

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地元ジョージアでは,新体操の本場ロシア系の気合いの入った親達が,ロシア系クラブではなく妻を頼り,子供達の指導を懇願してくるようにまでになった.日本人の親が子供の柔道指導を日本人指導者からアメリカ人指導者に乗り換えるような,オドロキの逆転状況である.

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異国の地で暮らしながら,本場の目の肥えた人達から信頼され,必要とされること.私が研究という分野で享受できるようになったことを,妻はスポーツという分野で達成してしまったのである.

そればかりか,さらには研究者の私を超えてしまった.

それが,新体操指導の会社(Shinohara Academy)の起業である.日本から来た在外研究者「自身」のアメリカ起業はそれなりにあるかもしれないが,日本から来た在外研究者「妻」のアメリカ起業は快挙だろう.会社登記を終えて喜ぶ歴史的瞬間がまぶしい(写真).これから10年かけてトップ選手を育てていくという.

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一方,アメリカで独り立ちすべき娘に関しては,高等教育に結び付けていかなければならない.アメリカのハイレベル大学での入学選考では,学業成績は「足切り」に過ぎず,学業以外の活動(スポーツや芸術)で卓越し,強いリーダーシップを持ち,その一方で社会にも貢献するという総合性を有し,それらが目に見える形で認められていることが重要となる.

幸運にも娘はスポーツ(新体操)でナショナルメンバーに選ばれたり,今年前半には全米優等生協会メンバーに選ばれたりしながら(写真),今のところは好ましい方向に向かってくれている.

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研究者という職業柄,四六時中研究のことばかりを考えてしまいがちだが,ここ数年,妻と娘にこれらの道筋を作ることを優先し,意識して切り替えて行動してきた甲斐があった.

子どものスポーツ活動に関しては,練習を見にいく,疲れた心身をいたわる,試合に応援に行く,という日常的サポートに加え,国籍を変えるという非日常的サポートもあった.妻のスポーツ指導に関しては,専門指導以外の雑事(外部との英語連絡,出張準備,カスタマーサポートなど)をすべて引き受けたりしている.

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これらを優先するため,今は研究に費やせる時間が少し限られてしまうが,この道筋作りもあと数年で落ち着くだろう.

長い目で見て,アメリカに来た研究者の家族「それぞれが」そこそこハッピーに暮らしていける一例になっていければ,とも思っている.


shinojpn at 19:18│Comments(0) プロフ生活 

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