June 24, 2013

大学の後輩女性がアメリカで飛躍:PhD取得&イギリスの大学就職

今は昔,大学に文系で入学した当初は,国際関係論を専攻する予定で意気込んでいた.そんなかつてのはかない思い出を遠くから呼びさますかのように,同じ大学出身の少し遅咲きの後輩(女性)が,ここアトランタで大きな飛躍を遂げた.

国際政治学を専攻し,つい数日前に博士論文を提出,来週半ばの口頭試問が終われば,晴れてPhDを取得する.イギリスの大学にテニュア付きの教員としての就職も決まったという,二連発のお目出度い話だ.同じアメリカで苦労してきた後輩の喜びを分かち合おうと,祝杯をあげずにはいられなくなった.

日本人思いのお店のカウンターで,大将の目の前に座らせてもらう.

「今日は,この女性のお祝いをさせていただこうと思って.」
「チャーミングで素敵な方なんですが,いや,こんなに強い目をした女性は,初めて見ました.すごいエネルギーを感じます.ほんとに.」

長年の客商売で何人もの女性達を目の前で見続けてきた大将が,どぎまぎしながら,うなるように驚きの声をあげた.

隣りで照れ隠しっぽく頬杖をついていた顔を,ひょいと左に傾けてみる.今日の主役は,女性研究者という陳腐なイメージにはつぶされず,丁寧に化粧をしてきている.紅の引かれた唇にふと魅き込まれそうになったいたずらな視線を,違う違う,と心でつぶやきながらそっと押し上げてみる.

目は口ほどにものを言う.

この目が,これまで,何を見て来たのか.

そして,この目で,今,何を見つめているのだろうか.

日本で暮らす同輩達は,官僚になったり,大きな会社で活躍したり,そんな着々とした人生を随分前から進み続けている.自分自身は,20代半ばになってから渡米,20代後半からPhD課程に通い始め,30半ばになって悶々とした学生生活をやっと終える.同輩達が一般的な道を歩んでいく姿に目を奪われそうになったこともあるだろうが,自分自身を見つめることに正直であり続け,世界に自分の道を切り開いていった.

ここ一年の就職活動の中,アメリカ各地はもちろん,シンガポールやカザフスタンなどの大学に就職する可能性にも揺さぶられた.学問的にも生活的にも,大きく異なる文化にさらけ出された自分の姿を心の中に映し出すことは,自分自身を,より深く見つめ直させてくれる.それは,自分が本当にしたいことなのか,そして,自分を伸ばせる環境なのか.それらを求めることは,分不相応な,贅沢なことなのか.

そんな心の揺れに押しつぶされそうになる自分の弱さに戸惑いながらも,それくらいの揺れには負けない自分を作らなきゃと,大和撫子ならではの力を振り絞り,目の前の博士論文執筆にエネルギーを注ぐ.

「天は自ら助くる者を助く」

博士論文執筆が進んだ最後の最後になった頃,まるでご褒美かのように,望ましい就職話が舞い込んでくる.

最終的に決めたこのイギリスでの大学教員職は,テニュア付きのいわゆる安泰なポジションである.しかし,ここは安逸に過ごす場所ではなく,次のステップ用に自分を伸ばすための一時的な場所と,既に決めている.数年後に成長してアメリカに戻って来るため,今からでも早く次の研究をしていかないと,と意気込んでいる.

この強い目は,もうすぐ実現する新たな自分の姿を,静的な固定物としてではなく,そこからさらに成長していく動的な変化物として追い見つめている.だからこそ感じさせる,すごいエネルギーなのかもしれない.



 

shinojpn at 06:36│Comments(2) 研究 

この記事へのコメント

1. Posted by Koga   July 08, 2013 21:49
篠原さん。ははは、テレるじゃないですか(笑)。素敵なブログに私の話を入れてくださり、有難うございます。やっと研究者として一歩を踏み出せて嬉しいという気持ちを、アメリカで活躍されている篠原さんに共有していただいて、本当に感謝しています。嬉しいです。

この前は、理系でのテニュアまでの道のり、リサーチファンドのこと、日本と欧米の研究機関の違い、そして「常に自分を成長させる意気込み」について、たくさん学ばせて頂き、大変勉強になりました(しかもお寿司つき!)。もう一度、夏にお会いできるのを楽しみにしています。
2. Posted by Shino   July 10, 2013 07:51
幸せのお裾分けとフレッシュなエネルギーをいただけて,私も感謝しています.次回,Dr. Kogaにお会いするのを楽しみにしています.

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