April 01, 2005

アメリカにいる理由

 「もうLabから出ていってくれ.日本に帰ることが決まったんだろう」
そんな夢で目が覚めた.まさにApril Fool's Dayに相応しい夢だ.

 

では,今日はApril Fool's Dayなので,ウソをつくのも自由という条件の中で,私がアメリカにいる理由を正当化してみよう.どの部分がウソと思うかは,読者の皆様次第.

 

アメリカに来て5年目になるが,当初の目的は「国際標準の研究者」になるために研究能力を磨くことであった.そもそも純粋な科学研究には国という概念がないため,その仕事は国際的な場でコミュニケーションされるべきものである.しかし,私が勤めていた日本の大学は,その能力がなかなか身につきにくいという状況にあった.すなわち,そのままいてもなかなか国際標準の研究者として仕事ができるようにならない,と私は判断せざるを得なかった.

 

そこで,年齢や立場的にはチャレンジになるが,日本の大学を辞めて国際標準の研究者がひしめくアメリカにトレーニングをしに来た.結果,国際標準の研究者がどういうものなのか,日本の私がいた状況とは随分違う,と肌で感じることができた.「何だ,本当はこういう風に仕事をするものなのか,知らなかった.」と.同時に,「日本で若い頃にこのような刺激・教育を日常的に受けていれば,歳とってからわざわざアメリカに来なくてもよかったのに」と,私の分野の日本での未成熟さを恨めしくさえ思ったりした.

 

そうこうして,国際標準の研究者になるためのトレーニングもそろそろ十分積んだかな,と思い始めた頃,日本の某大学から好条件の就職の誘いがあった.そう簡単にはある話ではないので真剣に悩んだが,結局は丁重にお断りした.そのときの理由は以下の通りである.

 

やっと国際標準の研究者としての力がそれなりに身についたので,次は,その能力を使って次々と研究を進めていく段階になるはずである.ところが,日本の大学では,それが上手にできるシステムになっていると自信をもって判断できなかったためである.と言っても,確かに,いい方向に向かっているという可能性を感じることはできたのだが,せっかくすべてを捨ててアメリカのいい環境で仕事をしているのに,今,それを捨ててまでその可能性に賭けた方がいい,と判断できるほど確かな可能性ではなかった.やっと国際標準に近づきかけた程度の私では,ヘタをすると国際標準から転げ落ちてしまいかねない.

 

もう一つの理由は,今,日本に帰ってしまうと,自分にとってのチャレンジが減ってしまう.日本に戻ってもそれなりにチャレンジしなければならないことがあるだろうが,こちらで不十分な英語で様々なハードルを越えなが研究を続けていく,というチャレンジとは比べものにならない.上を向いてチャレンジする事が大好きな私としては,日本に帰るとチャレンジが終わってしまう,それにはまだ若すぎると思わざるを得なかった.誘っていただいたことにはとても感謝するが,今の段階では,こちらでもっともっと研究能力を磨きながら,いい仕事をしていこう,そして,もっと立派になってから日本に還元しよう,そう決断をしたのだった.

 

一方,数ヶ月前,3年ぶりに一時帰国して日本の若い研究者(やその卵)達と出会う中で,彼らの学問に対する熱意とともに,何かを渇望しているような雰囲気を感じた.その何かとは,きっと知的興奮の交流なのではないか,と勝手に解釈するようになった.このことは,私の心に予想もしなかった変化を与えることになった.

 

こちらで,色々な国の出身の人と話をしていると,彼らは国際標準の研究者になるべく,大学・大学院時代にとてもよい教育を受けていることが感じ取れる.一方,私は積極的に教育を受ける機会を求めてきたつもりだが,どうも我々の分野では,そういう機会が限られていたと判断せざるを得ない.こちらでいくつかの授業に出てみても,教育の内容も方法も,随分違うことを感じる.

 

若くて希望に満ちている人達に,自分の二の舞を踏んで欲しくはない.若さゆえの好奇心とパワーを活かして,興味ある分野での知的興奮を楽しんで欲しい.そういう気持ちが日に日に強くなってきた.日本にいると「研究はこんなもの」と誤解してリラックスしまう危険性があるが,それは知的財産の損失であろう.日本にいると,国際標準の研究の世界に触れる機会があまりないであろうから,まずはそういう世界を少しでも紹介すれば,自分の向かいたい方向が見えてくるのでは,と思ったのが,このblogの始まりであった.日本に帰って雑事に追われて消耗するよりは,こちらで活き活きして遠隔教育をした方が,別の教育効果があるかもしれない,と.

 

もともとは,アメリカでは研究職にずっと就いていよう,と思っていた私だが,このような考えから,こちらで教育もした方がいいのでは,というようにまで考えが変わってしまった.本当は英語で教育することは大変なのでできるだけ避けたいのだが,もし将来日本に帰ったときには,こちらでの教育経験があった方が,より柔軟性と質の高い教育ができるのではないか,と思ったのである.歳とともに記憶力の低下に呆れる今日この頃だが,これをもう一つのチャレンジにしようと思っている.

 

そう,私が今でもアメリカにいるのは,こんなにも日本を愛しているからなのである.


shinojpn at 16:50│Comments(2)TrackBack(0) 研究 

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この記事へのコメント

1. Posted by SE   April 02, 2005 13:35
大変興味深く拝読しました。共感する部分が大変多いです。滞米期間が長くなり悪い意味での「慣れ」を感じ始めているので、私も初心を振り返る意味で「アメリカにいる理由」文章にまとめておこうかと思いました。
2. Posted by Shino   April 04, 2005 20:20
まあ,April Fool's Dayということで,何割引きかで解釈してください.
SEさんの「アメリカにいる理由」,楽しみにしています.

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